Respect for You.

僕の好きなこと。

道楽の道。
佐藤浩市

text by Kobayashi Kazuto photos by Kawakami Naomi

日本を代表する俳優が、実は筋金入りのゴルファーだということを知る人は少ないかもしれない。だが、映画のクランクアップ前日にクラブ対抗の代表選手としてプレーしたばかりだという佐藤浩市氏は、紛れもなく本物のゴルファーなのである。「芸能人の趣味」という範疇を遥かに超えたレベルでプレーする佐藤氏はどのような想いで球を打ち、それは芝居という聖域とどのようにリンクしているのだろうか。

スポーツのいいところは
数字なんですよ。

レダン編集部(以下、レダン) まず最初にお伺いしたかったのは、ゴルフの面白さをどこに感じているか、ということなんです。

佐藤浩市さん(以下、佐藤/敬称略) スポーツのいいところは数字なんですよ。数字ですべてが決まる部分。そこらへんがスポーツの良さであって、だからアスリートはわかりやすい人と、凄く偏った複雑さを持つ人に二極化しているように思うんですよ。しかしその一方で、「クラッチ」という言葉があるわけじゃないですか。ここが勝負の分かれ目みたいなところでどう切り替えて強さを発揮するのか。そのときに人間力とか勝負運といったものが加味されて、結果が出たり出なかったりする。それがそのスポーツ選手のある種の分岐点でもあるんだけど、そのあたりは人生とか、僕らの仕事と多少比較ができる面白さがあるんです。

レダン 必ずどこかに勝負の分かれ目があるということですね。

佐藤 たとえば17番のパー3で前が詰まっていて、そこでちょっと待ったことで勝負が決まっちゃったな、っていうのがあるとするじゃないですか。ゴルフ中継を見ていると、選手の表情なり何なりから、その分かれ目や人間性の機微みたいなものが見えてくるんですよ。後から考えれば、ああ、あそこが分かれ目だったよなっていう瞬間があるわけだし、そういうことでその人間の心理や置かれる立場が変わっていく。それがこのスポーツの面白さでもありますね。そしてもう1つ言えるのは、経験値と肉体の兼ね合いで結果が決まってくるという部分が、僕らの仕事と非常に似ているということ。年齢という座標軸に対して肉体が放物線を描く一方で、経験値はどんどん上がっていく。それらがうまくシンクロすると、キャリアの中で一番いい時期を迎えられるわけですよ。そして体の動きや反応力といったものが下降し始めた後は、気力や経験で補い結果を出していく。まったく同じなんだけど、スポーツ選手はまったく別個の仕事だから、あえて正面から面白く見られるというのがありますね。

レダン 役者にとってのスコアって何ですか?

佐藤 数字でしょう。いまのテレビはすべてを背負わせるにはあまりにか弱い経験値の子たちが主役になる場合もあるし、数字が出ないこともある。そのときに製作側が「大丈夫だよ。キミのせいじゃないよ」と言ったとしても、それは「せい」なんですよ。僕が主役をやる子たちに言うのは、全部ひっかぶれ、ひっかぶらなきゃダメだよ、っていうことです。あなたのせいじゃないよ、と言われたからといって、そこに逃げていたらもう1回やる意味がないじゃないですか。「主役を張る以上は、数字が良かろうが悪かろうが、そこで全部ひっかぶれ。そういうことをやっていかないと、真ん中って務まらないんだよ」っていう言い方をしますね。

レダン 佐藤さんは青島賢吾君とも交流があるとのことですが、彼もいま結果を出そうともがいているさなかですね。

佐藤 青島君には、僕は期待っていうよりも、いい経験を積んでくれたらいいなっていう想いがあります。「負けからじゃないと学ぶものはない」ってみんな簡単に言うし、もちろんそれは真理なんだろうけれども、負けの意味をどう理解できるかということですよね。案外、学んでいるようでも全然学んでいない場合があるわけだから、結局は、負けから学ぶことができるかできないかということで差が出るんですよ。また、これは以前にも伝えたことですけど、自分たちは社会にとって必要のないことをやってるわけで、だからこそ大事だし、だからこそ謙虚になるべきだと思うんです。医者が努力したのは本当の努力だけれど、われわれの努力は人のための努力じゃなくて、自分のための努力。それを踏まえてやってください、ということですよね。

レダン 最近のジュニアゴルファーはスイングやショットのレベルは高いのですが、少し大人しい気がします。役者さんはどうでしょうか。

佐藤 いまの若い役者は昔よりも上手ですよ。なぜかというと情報量が圧倒的だからです。ただ選択の幅が広いので、自分たちの世代に絞られたものしか見ないし、逆にそれが不幸だな、と感じるときがあります。僕らの時代はDVDもなければビデオもない。劇場しかなかったんで、17、8歳で『飢餓海峡』のリバイバルなんか見ていたわけです。わかるわけないんだけど、何でもいいけどそこから吸収したいっていう意識が見させるんですよね。すると何かしらあるんですよ。つまり選択肢がないなら、ないところから選ぶっていう良さがいまは当然ないわけで、それが「弱さ」にもなり得るということなんです。ゴルフも道具や環境が良くなっているから、40年前よりいまのゴルファーのほうが絶対に上手いはずなんだけれど、打たれ弱さも感じるし、僕らの世界でいうと、平成生まれとかにちょっと小言を言うと「もう帰っていいですか」って……みんな口ポッカーンなんですよ。

レダン 日本の若いゴルファーも昔のゲームは見ていないですね。だから言葉に深みがないという部分があります。

佐藤 われわれの時代は溝口健二とか、古典のものを見ていたわけだけど、いまの人たちは興味ないですね。いま見ても面白いし、若い役者に教えてあげると一応メモとってますけど、携帯に(笑)。ゴルフだと、昔のマスターズの名勝負を見ても意味がないっていうのがあるんでしょうね。確かに技術も違うし道具も違うから、得るものがないといえばないんだけど、心理戦を見て欲しいですよね。1996年のマスターズで自滅していくグレッグ・ノーマンとか。あれだって途中でファルドに来年のチャンピオンズディナーのメニューを考えとけって言われて、そこからノーマンはガタガタガタって崩れていった。そういうことを知るのは無駄ではないはずです。

レダン 本当によく知っていますよね。そもそもゴルフはいつ始めたんですか?

佐藤 30歳に手が届くようなときでしたね。知り合いから1セットもらっちゃって、やらざるをえなくなったんです。やってみたら面白くていまに至るということです。人から物を教わるのが得手ではないので我流でやっていて、でも絶対に限界があるんで、何人かコーチを渡り歩きましたけどね。結局はやっぱり自分である程度枠をつくって、それをたまにチェックしてもらうということでやってます。